16日ぶりにプロ野球が帰ってきた。カープは広島の希望になるべく戦う。

広島に熱狂が戻ってきた。7月20日、マツダスタジアムで巨人戦が行われた。16日ぶりとなったプロ野球に、満員のスタンドは赤く染まり、そして揺れた。   戻りつつある日常を感じながらも、決して忘れてはいけないものがある。試合前には両チームの選手が義援金の募金活動を行い、半旗が掲げられる中で両チームのファンは鳴り物の応援を自粛した。広島のテレビにはまだ「豪雨災害情報」が随時流れている。何より、バックスクリーン左に望む、青々とした山の山頂付近にむき出しとなった土色がその爪痕を物語る。   2週間前、広島は歴史的な豪雨に見舞われた。土砂が崩れ、川が氾濫。家や車が流され、道路や鉄道も寸断された。広島ナインは、この日と同じ巨人との3連戦を東京ドームで戦っていた。   広島球団は、すでに完売だった9日からの阪神3連戦の中止を決断。東京では全体像がはっきりと見えていなかった選手たちも、広島に戻るとがくぜんとし、言葉を失った。  「野球で元気をとよく言うけれど、そういう時期じゃない」と、広島出身の新井貴浩はかぶりを振った。新井は東日本大震災が起きた2011年のプロ野球選手会会長で、開幕を強行しようとするセ・リーグに開幕延期を訴え続けたこともあるだけに、経営側の球団の決断に理解というよりも、感謝しているようだった。 ラジオから流れる野球の実況に……。   広島はまだ悲しみに覆われている。不明者の捜索はなおも続き、ニュースに胸が締め付けられる。ただ、立ち止まることも許されない。被災地は徐々に復興へ向かおうとしている。   そしてプロ野球も再開する。オールスター休みを挟み迎えた後半戦。8日ぶりに広島戦が行われた16日の中日戦(ナゴヤドーム)は、ラジオから流れる丸佳浩の本塁打の実況やクリス・ジョンソンの力投の実況に、被災した人たちは思わず喜びの声を上げたと聞く。 カープは復興の光になれるはず。   自然の猛威を目の当たりにする度、筆の無力さを痛感させられるが、プロ野球選手は違う。東日本大震災のときは新井選手会会長を中心に12球団がまとまり、東北に本拠地を置く楽天が支援活動を続けている。’95年の阪神大震災のときには、オリックスが「がんばろうKOBE」を掲げて復興の光となった。   広島カープもきっと、そんな存在になれるはず――。そう感じさせたのが、広島でプロ野球が再開した20日からの巨人3連戦だった。   朝からマツダスタジアムの正門前にファンが列をつくり、プレーボールを待ちわびるようにスタンドはすぐに真っ赤に染まった。そして変わらぬ大声援。いつものように広島ナインの背中を押す。 球団初の3連覇に近づく3連勝。   ファンが作り出した最高の舞台で、広島ナインが示した姿は「あきらめない」というものだった。   序盤から大量7点を奪って優位に試合を進めながら、終盤に追いつかれ、延長10回には勝ち越された。その裏、あとアウト1つから途中出場の下水流昂が一振りで試合をひっくり返した。   巨人マシソンの外角球をたたいた打球は右翼方向へ上がり、「自分でもびっくりするくらいうまく打てた。みんなの思いが乗った本塁打でした」と振り返るように広島ファンで埋まった右翼ポール際に吸い込まれた。   何度も起こしてきた逆転劇に、殊勲者下水流は「(逆転で)勝ってきていることが自信になっている。何とかなると。それをファンも感じてくれている」とベンチ、スタンドが一体となった勝利と表現した。   ペナントレースという視点で見たとき、優勝争いに大きな影響を及ぼすと思われていた、この巨人3連戦を広島はすべて逆転で勝利。3連勝で球団初の3連覇に近づくとともに、広島に勇気を与えた。 「あきらめない」男たちの姿。   初戦は逆転サヨナラ2ランで試合が決まり、2戦目もビハインドから巨人のエース菅野を攻略した。3戦目は1発攻勢で最大6点ビハインドをひっくり返した。「あきらめない」勝利の裏には、諦めなかった男たちの貢献もある。   3連勝の勢いをつけた下水流は昨年、5月以降二軍暮らしが続いた。「最後まで自分の形を見失ってしまっていた」という打撃を見直し、今季はすでに自己最多にあと1試合に迫る出場数を記録する。   2戦目に菅野攻略の突破口を開いた西川龍馬も、今季は開幕直後から「野球人生で記憶にない」ほどの大不振に陥っていた。軸足重心の流れを変えるなど修正し、降格時.118だった打率は今では.297にまで上げた。   3戦目の7回に上位打線を抑え、793日ぶり勝利を挙げたチーム最年長投手の永川勝浩は、この3試合すべてに登板していた。 はい上がってきた者とつかんだ勝利。   永川は得点を奪い合う厳しい試合展開が続く中、3試合のいずれもシャットアウト。2戦目には、先発大瀬良大地を助け、試合の流れを巨人に渡さない見事な投球を見せつけていた。   慢性的な左膝の痛みから納得できる動きができず一軍登板なしに終わった昨年、手術を行った。今年も二軍からスタート。6月に一軍昇格するも、若手が多い中継ぎの中で、その序列は最後列だった。そこから結果と信頼を積み重ね、今では勝利の方程式に組み込まれそうな立場にまで上がっている。   はい上がってきた者たちとともにつかみ取った勝利から得られるものは、快勝から得るものとはまた違う。   復興へ向かう被災地の姿が選手たちの胸を突き動かし、選手たちの戦う姿がまた被災地を勇気づけた。 広島カープに、新たな使命が刻まれた。   復興、復旧に向かっているとはいえ、まだその歩は進めたばかりに過ぎない。お立ち台に上がった選手たちは、勝利の喜びとともに同じ言葉を口にした。  「ともに、一緒に戦っていきましょう」(20日、下水流)  「助け合い、支え合い、カープも広島も頑張っていきましょう」(21日、会沢翼)  「みなさんの前で野球がやれる幸せをあらためて感じた3連戦だったので、またその気持ちを忘れずに、チーム一丸、広島一丸となって戦っていきたいと思います」(22日、丸)。   広島と一緒に、広島とともに――。3連覇を目指すカープが、新たな使命を胸に刻んだ。  (「炎の一筆入魂」前原淳 = 文 / photograph by Kyodo News)

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